ペロブスカイト太陽電池の実用化はいつ?特徴やデメリットについても解説
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系パネルと比較して、薄さと軽さを実現できる観点から注目を集めています。
日本政府も早期の社会実装を目指していることから、産業界や研究機関からも大きな期待が寄せられています。
ペロブスカイト太陽電池メーカーの量産開始時期は、早くて2028年頃と予測されています。
本記事では、ペロブスカイト太陽電池の特徴やメリット・デメリット、実用化に向けた動向について解説しているので、ぜひ最後までご覧ください。
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ペロブスカイト太陽電池の特徴
ペロブスカイトとは、「灰チタン石(カイチタンセキ)(CaTiO3)」と同様の結晶構造を持つ物質の総称です。
この構造を持つ有機ハロゲン化鉛を利用したペロブスカイト太陽電池は、2009年に桐蔭横浜大学の宮坂力教授によって発明されました。
ペロブスカイト太陽電池の主な特徴は、薄くて軽いことです。従来のシリコン太陽電池と比べて、柔軟性があるため様々な形状にできます。
また、塗布や印刷技術で製造可能なため製造工程が簡素化される点、日本国内で主要原料のヨウ素は世界第2位の生産量がある点など、コストを抑えられることで注目を集めています。
国産技術でサプライチェーンも国内で確保できるので、経済安全保障の面からも期待が大きいです。
発電の仕組み
太陽光発電の基本的な仕組みは、太陽光パネルに使用されるp型半導体とn型半導体の接合部に光が当たることで電子と正孔が生成され、電流が流れることです。
この原理は現在主流となっているシリコン系パネルでも、ペロブスカイト太陽電池でも同様です。
ペロブスカイト太陽電池は、シート表面に光が当たると光エネルギーをペロブスカイト層が吸収し、電子と正孔が生成されホール輸送層と電子輸送層の間に電流が生じ発電します。
既存の太陽電池と違う点
ペロブスカイト太陽電池は、既存のシリコン系太陽電池と比べて最も顕著な違いは、薄さと軽さです。
フィルム状に製造され、重さはシリコン系パネルの10分の1とされています。この特性により、従来のパネルでは設置ができなかった小さい屋根にも取り付けが可能になりました。
ペロブスカイト太陽電池は柔軟性に優れており、ある程度曲げても問題なく使用できるため、曲面のある建物の壁面やガラス窓などにも設置可能です。
ペロブスカイト太陽光発電は適用範囲が大きいので、従来は利用できなかった場所でも発電が可能になります。
ペロブスカイト太陽電池の実用化は2025年ごろ?
ペロブスカイト太陽電池の実用化は、2025年頃になると予測されています。日本国内では商用化に向けた取り組みが進んでいますが、現在は実証段階の製品が多いです。
中国やポーランドでは一部実用化されていますが、量産には至っていません。
日本国内でも耐久性や製造コストなどの課題、安全性や面積の大きさなどの課題も残されているため、実際の普及には更なる時間がかかる可能性もあります。
一方で、企業や研究機関での製品開発も進んでいるため、企業の具体的な取り組み事例について後ほど詳細を解説します。
ペロブスカイト太陽電池の国内市場は2024年に1.5GWと予測
2024年11月15日、矢野経済研究所より、2050年度までのペロブスカイト太陽電池による新規導入容量の予測が公表されました。
2040年度には、ペロブスカイト太陽電池の新規導入容量が1.5GWにまで達するとされています。
各メーカーの量産開始時期は、早くて2028年頃と見込まれているため、資源エネルギー庁の「2030年までにGW級の量産体制構築」という方針の実現にはハードルがあると言えます。
ペロブスカイト太陽電池で多くの発電容量を確保する取り組みとして、まずは学校や公営住宅に率先してパネルを設置するための措置が必要と考えられています。
出典:【矢野経済研究所】ペロブスカイト太陽電池・部材に関する調査を実施(2024年)
出典:【資源エネルギー庁】次世代型太陽電池に関する国内外の動向等について
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お申し込みはこちらペロブスカイト太陽電池のデメリット
ペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽光発電技術として大きな期待を集めていますが、実用化に向けてはいくつかの課題があります。3つの観点から解説します。
- 有害な鉛を含んでいる
- 従来型太陽電池より寿命が少ない
- 性能が不安定になる
有害な鉛を含んでいる
ペロブスカイト太陽電池には、少量ですが有害な鉛が含まれています。破損や廃棄時に鉛が漏出すれば、土壌や水質の汚染につながる可能性があり、環境への悪影響が懸念されます。
鉛フリーな光吸収層の報告も挙げられていますが、発電効率は5%ほどと実用性はまだ低いです。
2025年に製造される予定の鉛を含むペロブスカイト太陽電池も15%程度で、シリコン型太陽パネルには遠く及ばない状況です。
環境負荷の低減と発電効率の改善の両立が、ペロブスカイト太陽電池の重要な課題となっています。
従来の太陽電池よりも寿命が少ない
シリコン太陽電池は20〜30年の耐用年数がありますが、ペロブスカイト太陽電池は開発当初、期待寿命が約5年と短いものでした 。
寿命の短さの主な原因は、紫外線や赤外線に対する脆弱性です。
しかし、研究が進み、耐用年数10年以上のペロブスカイト太陽電池が開発されています。 2021年には兵庫県立大学が20年相当の耐久性に改善できることを実証し、2024年1月には積水化学が2025年に20年相当の耐用年数を目指す方針を示しました。
参考:ペロブスカイト太陽電池の寿命は20年相当まで改善できる、兵庫県立大などが確認
性能が不安定になってしまう
ペロブスカイト太陽電池は、酸素や湿度、紫外線などの外部環境に弱いです。吸湿性を持つペロブスカイト太陽電池の材料は、大気中の水分を吸収し性能が低下します。
また、紫外線にさらされると結晶構造が崩れてしまいます。これらの外的要因により、ペロブスカイト太陽電池の性能は不安定になりがちです。
耐久性や性能の安定化が実用化に向けた大きな課題となっており、この問題を解決するための研究開発が現在も進められています。
ペロブスカイト太陽電池のメリット
ペロブスカイト太陽電池には、シリコン系太陽電池と比べ様々なメリットがあります。
- 製造コストが安い
- レアメタルを使わない
- 主原料のヨウ素は日本で採れる
- 様々な場所に設置できる
- 軽量な太陽電池ができる
- 低照度でも発電できる
- 光を透過する
製造コストを抑えることができる
ペロブスカイト太陽電池は、塗布や印刷技術を用いて量産可能で、従来のシリコン系太陽電池に比べ製造工程がシンプルなため製造コストを低く抑えることが可能です。
製造工程が少ない分、エネルギーコストも小さくなります。
また、非常に薄いフィルムで作られるため、使用する材料の量が少なく、材料費も大幅に削減でき従来のシリコン系太陽光電池の20分の1の材料費でできると言われています。
レアメタルを必要としない
ペロブスカイト太陽電池は、レアメタルを必要としない次世代の太陽電池として注目を集めています。
化合物系の太陽光パネルではレアメタルが使用されていますが、レアメタルは日本国内での産出が少ないため輸入に依存せざるを得ません。
また、太陽光パネルは将来的に廃棄物になりますが、レアメタルのリサイクル方法が確立されていないという課題もあります。
一方、ペロブスカイト太陽電池の主な原材料はヨウ素となり、レアメタルを必要としないことから注目を集めています。
主原料のヨウ素は日本で採掘できる
ペロブスカイト太陽電池の主原料であるヨウ素は、日本国内で豊富に生産可能な資源です。世界の生産量の約30%を担っており、生産量はチリに続く世界第2位となっています。
国内で安定的に生産できるヨウ素を主原料としているので、輸入に頼る必要がありません。
その結果、ペロブスカイト太陽電池の生産は、世界情勢の影響を受けず安定した価格で原材料を調達できます。
さまざまな場所に設置できる
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池と比較して、設置場所の制限が非常に少ないことが特徴的です。
軽量で柔軟性を持つことにより、耐荷重の小さい屋根や建物の壁面、さらにはアーチ状の場所にも設置が可能です。従来のシリコン系太陽電池のパネルは一枚が大きく重いため、どうしても設置場所に制限がかかります。
ペロブスカイト太陽電池の開発により、オフィスや住宅の窓ガラス、高層ビルの外壁、基地局などこれまで活用されていなかった場所での設置が可能になります。
軽くて薄いペロブスカイト太陽電池により、再生可能エネルギーの普及が大きく促進されることが期待されています。
軽量な太陽電池を開発できる
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池と比べて非常に軽量で、1㎡あたり1㎏ほどと言われています。
従来のシリコン系パネルは1㎡あたり15㎏ほどなので、設置する場合はしっかりした基礎工事や重さを支えられる架台が必要でした。
種類 | 1㎡あたりの重さ(目安) |
シリコン系太陽電池 | 15㎏ |
ペロブスカイト太陽電池 | 1㎏ |
ペロブスカイト太陽電池はシリコン系パネルの10分の1以下の重量なので、建物への負荷を軽減して設置できます。
また、ペロブスカイト太陽電池の軽量さを活かすことで、施工が容易になり工数を短縮できる可能性も大きいです。
低照度の環境でも発電できる
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池では効率的に発電できなかった弱い光でも発電が可能です。
曇りや雨天時など天候が悪い日でも、発電効率の向上が期待できます。
さらに、室内照明のような微弱な光でも発電できるため、屋内での活用も可能となり幅広い場所での運用や設置が期待されています。室内で発電が可能なことから、災害時に通信や最低限の生産活動を維持できる可能性もあります。
光を透過する
シリコン系太陽電池など従来の太陽光電池と違い、ペロブスカイト太陽電池は光を透過する性質を持っています。この性質により、ガラス窓の透明な表面などに設置しても、日光を遮ることなく発電が可能です。
例えば、建物の窓やEV車の車体に埋め込むなど、これまで太陽電池の設置が難しかった場所への対応が期待されています。
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お申し込みはこちらペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた企業の取り組み
ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて、多くの企業が積極的に取り組んでいます。共同企業や目的、実験や研究の背景など、以下の企業の取り組み事例を紹介します。
- 積水化学工業株式会社
- 株式会社アイシン
- 株式会社東芝
積水化学工業株式会社
積水化学工業株式会社は、株式会社NTTデータと共同で、2023年4月から国内初のフィルム型ペロブスカイト太陽電池の建物外壁設置実証実験を開始しました。
取り組みの背景には、都心部での再生可能エネルギー導入の問題があります。
従来のシリコン系太陽電池は平らで広い土地が必要なため設置場所が限定的で、電気消費量の多い都市部では太陽光電池を利用できませんでした。
そのため、軽量で柔軟なペロブスカイト太陽電池を活用し、データセンターやオフィスビルに設置し、都市部の脱炭素化に貢献することを目標としています。
参考:国内初、ペロブスカイト太陽電池を建物外壁に設置した実証実験開始
株式会社アイシン
株式会社アイシンは、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けて積極的に取り組んでいます。
東京大学との産学連携により、2010年から研究開発を進めています。アイシンの特徴は、薄板ガラスを使用することで酸素や水の浸透を抑え耐久性を向上させている点です。
また、スプレー塗装の技術を用いることで、1ミクロンの厚さのペロブスカイト層を均一に塗装できるようになり、高品質な製品の安定供給を可能にしています。
2025年の自社工場での実証実験に向けて開発を進めています。
株式会社東芝
株式会社東芝は、2023年に東急田園都市線・青葉台駅正面口改札前自由通路にて実施するペロブスカイト太陽電池の先行実証実験向けに、大面積のフィルム型同電池を実験資材として提供します。
東芝はNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「太陽光発電主力電源化推進技術開発」事業に取り組み、大面積のものとしては16.6%という世界最高のエネルギー変換効率を記録しました。
地球温暖化対策の重要な目標であるカーボンニュートラル社会の実現に向けて、ペロブスカイト太陽電池の実用化に向けた開発を強化しています。
ペロブスカイト太陽電池の普及に向けた国の取り組み
ペロブスカイト太陽電池を普及させるため、国も様々な取り組みをしています。それぞれ解説します。
- FIT制度の対象に追加
- 国の予算を150億円積み増し
- 補助金事業の概算要求
ペロブスカイト太陽電池をFIT制度の対象に追加
2024年5月、日本政府は次世代太陽電池の普及促進のため、FIT(固定価格買取制度)とFIP(市場連動型買取制度)による支援を検討し始めました。
ペロブスカイト太陽電池は、従来のシリコン系太陽電池では対応が困難な場所にも設置が可能です。
また、導入コストが低いことなどから、収益を伸ばしやすいというメリットがあります。
出典:【経済産業省】次世代型太陽電池に関する国内外の動向等について
ペロブスカイト太陽電池の予算を150億円積み増し
経済産業省は次世代太陽電池について、量産技術の確立のため支援の拡充について合意しました。具体的には、予算を150億円積み増し、498億円から648億円に増額したことを発表しました。
150億円のうち80億円は多様な利用形態での実証、30億円は技術基盤の開発支援、40億円は大型化・耐久性向上に向けた開発支援となっています。
これは、開発や研究を促進し、社会実装を早めることを意味しています。
出典:【経済産業省】次世代型太陽電池に関する国内外の動向等について
ペロブスカイト太陽電池の補助金
ペロブスカイト太陽電池を含む次世代太陽電池の開発に向けて、政府は補助金の概算要求を行っています。概算要求とは、翌年度の予算編成に向けて、各省庁が財務省に対する予算要求です。
環境省が要求している、「窓・壁等と一体となった太陽光発電の導入加速化支援事業」は、その一例です。
補助率は内容によって、3/5もしくは1/2となっています。地域の再生可能エネルギーの可能性を最大限に活用するため、自家消費型・地産地消型の促進を目的とします。
参考:【環境省】民間企業等による再エネ主力化・レジリエンス強化促進事業
ペロブスカイト太陽電池は次世代の太陽電池として注目が集まっている
ペロブスカイト太陽電池は、薄くて軽く柔軟性があり、低コストでの製造が可能です。企業は研究開発を進めており政府も支援を行っています。
2024年時点では実用化されておらず、既存のパネルを導入する必要があります。
自社で太陽光発電の所有を検討中の担当者様は、次世代太陽電池の動向も参考に導入を検討してみてはいかがでしょうか。
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